立ち往生

基本的にネタバレに配慮していないのでご注意ください。

「遙かなる時空の中で3 Ultimate」感想

誰に聞いても二言目には「主人公が強い」と言われることでおなじみの遙か3をようやくプレイしました。攻略順に感想を(攻略サイトに沿ってプレイしたので、プレイ順とキャラの好みは関係ないです)。

 

 

 

 

◆ヒノエ

友人が「わたしはヒノエくんが好きだし、ヒノエくんもみんなのことが好きだと思う」と言った意味が、初登場後5秒くらいでよくわかった和歌好きの頭領。ナンパな性格だけど決して軽薄ではない、というバランスの良さは流石のネオロマだし、恋愛EDに向かうためには本心に近づくイベントをあえて避けないといけない変化球な構成がすごくいいなと思った。

望美ちゃんに一番寄り添っているようでそうでもないところも、常に俯瞰で他人を見定めている姿勢がよく出ている。かといってそればかりではただの嫌な奴になりかねないところを、弁慶には言い勝てず、ペースを乱されるばかりという人間っぽさでググッと魅力的に見せているのが本当に上手い。「神子」への興味・関心から、「望美」個人に惹かれていく変化が一番自然に感じられた。でも十六夜EDの、現代と熊野を行き来してるチートにも程がある終わり方は全然納得できねえ…。そんなんできたら誰も最初から苦労してないやんけ

イベントとしては、雨の梶原家で望美ちゃんと語り合うイベントが一番好きです。「さらっと本心を吐露しているけど真意は相手に伝わっていない、伝わらないのがわかるからあえて吐露している」という、全宇宙の乙女ゲープレイヤーが好きなやつね。高橋さんのわざとかすれ気味に抑えた演技も素晴らしいなと思います。

 

◆将臣

見知らぬ世界に一人で放り出されて三年。三年間の苦労を将臣が語るシーンはほとんどなく「楽なことばかりじゃなかった」って一度言われるだけなんだけど、並大抵の苦難でなかったことは想像に難くない。その三年間を経てようやく出会った望美と譲の、まだこちらに来たばかりの顔を見た時、将臣の心によぎった感情って、たぶん「無事でよかった」みたいなプラスのものばっかりじゃないですよね。「なんでお前たちは」って一瞬でも思ったことない、って言ったら嘘だよね。

セリフとして明文化されているわけじゃないけど、将臣の行動や物の言い方に諦めや孤独が強烈に浮かび上がることがたまにあって、これは将臣が平家側の人間だから、というだけではないよね。そういう仄暗さがゆらっと匂い立つたびに、将臣と望美ちゃんの、まるで戦友のような近くて遠い関係性が腑に落ちる感覚があった。望美ちゃんの強烈なまでのまっすぐさがハマる相手だなあ、というか…。

そして譲があれほどのこじらせキャラになってしまった理由にもガッテンするのであった。この兄が常に側にいたらそりゃあこじらせムッツリにもなるってもんだ。1歳しか違わないのに、親もなんでこんな上司と部下みたいな名前を付けたんだ。

望美ちゃんというヒロインにふさわしい熱血王道ロマンスのまま突っ走らせてくれるストーリーは爽快だった。途中から寝返ることもなく自分なりの仁義を貫いて、時には最後まで剣を向けることを選ぶ、という姿勢もすごくすごくよかったです。

 

◆譲

いや~、来ましたよムッツリ年下童貞こじらせキャラ! 大好物です! 壁ドンが唐突すぎてびっくりしてVitaを取り落してしまった。壁ドンは計画的にね! 次の日に「えっ、何のことですか?」的に爽やかな笑顔で総スルーしようとしたのもだいぶ狂気を感じてよかったし、言動に独占欲をビシビシ感じるのもたまらんかった。絶対望美ちゃんでそういうアレを妄想しまくってるだろうなと思うと、ボタンを押す指にも力が入ります。毎日どんな気持ちで望美ちゃんを起こしていたんでしょうか。ワクワクが止まりませんね~。

譲くんは望美ちゃんを「仕方のない人だな」ってフォローできないと死んでしまう病気なので、自身の強さですべてをなぎ倒して前進していくタイプの望美ちゃんとはとても合っていると思う。合っている、合っているだけに、他キャラのルートで京に残っちゃう望美ちゃんを置いて帰る譲くんが、現代でどんなふうに一人で生きていくのか考えるとご飯がうまい。女関係が荒んでほしいな~。

実は将臣への強烈なコンプレックスを抱えていて、京に来てから劣等感が鮮明になる構造も上手いんですよね。将臣をあえて平家側に配置することで、距離的にも立場的にも譲くんの方がずっと望美ちゃんの近くにいるが故に、わざとピントをぼかしていたはずのものがかえってクリアになってしまうという。

望美ちゃんを死なせないために身を挺したわけだけど、望美ちゃんの中に「自分を犠牲にして生きた」という永遠に消えない痕を残すその行為に、確かに満足感があったはずだと思う。譲くんにとって望美という人はあまりにも神格化されていて、彼女がいない世界でひとり生きるより、彼女のために死ぬほうがたぶんずっと自然なんですよね。でも死んだあと彼女は他の誰かと、と想像に苛まれると近づく死が恐ろしくてたまらないし、会えば会ったで「譲くんがいないとダメだよ」みたいにド直球ストレートで鋭角に殴られ続ける。残酷です。

 

◆九郎

手懐けるの苦労しそうやんけ、と思ったら開始5分くらいでデレてくれた、チョロいにも程がある源氏の大将。兄上兄上兄上兄上先生先生兄上兄上! って感じ。大将がそれでええんか。素直なお坊ちゃんオーラがストーリーにハマっていたので悪くはなかったけど、衝突しつつも仲間として信頼関係を深めていく過程はかなり丁寧だったのに、牢での「行ってくれ」シーンで、おめえいつの間にそこまで好きになったんや!? とだいぶびっくりしました。

でも望美ちゃんを静御前に見立てた展開はすごく収まりが綺麗で、流石のネオロマ感が貫禄あってよかったです。和歌の使い方も効いていたし、望美ちゃんが静御前みたいに頼朝の前で舞った時に、譲があそこで和歌を出した意味がわかる、的な伏線回収の爽快さが素晴らしい。そして九郎がここまで直截的で率直だからこそ、脇にいる弁慶の存在感が増すんだよなあ、とも思うのでした。

 

◆敦盛

ネオロマってやっぱりハッピーエンドじゃないとダメなんだなあ…と、だいぶぬるっとした気持ちを抱いたルート。いや、敦盛がどうとかではなくて、やっぱり怨霊なのだったら浄化せねばダメでは…??

平家も源氏も死ねばみな怨霊になってしまう、そんな死者への冒涜は許せない、的な流れもあっただけに、なんか普通に敦盛が現代に来てハッピー! みたいな結末はどうにも飲み込みづらいものがありました。今まで浄化してきた怨霊と何が違うん? 役目を終えたなら浄化させてこそ、今まで全うしてきた使命が意味を持つのでは…? なのできちんと浄化させたEDがわたしの中では真EDです。

 

◆リズヴァーン

この頃になると望美ちゃんもだいぶムキムキで、敵を悠々と殴り倒せるようになってきた。が、リズ先生が気になるあまり戦いに身が入らない望美ちゃんが好きになれなかったので、正直に言うとだいぶ忍耐力が必要なルートでした。先生の死を防ぐために時空を戻ってきたはずなのに、いざ戦が始まる段になって「きしゅう? …奇襲! そうだ、奇襲があるんだった!」とか言われた時には、世界中のちゃぶ台をひっくり返したい気持ちになった。時間遡行軍もビックリの気軽な歴史改変を躊躇なくやりまくって麻痺してきちまったのか。石田彰は何訊いてもすぐ「答えられない」って言うし。

でも、先生を助けたいがために過去へ戻る望美ちゃんと、望美ちゃんを助けたいがために過去へ戻る先生、そして先生が過去へ戻れるのは、未来の望美ちゃんから奪ったアイテムがあるから、という、歴史がくんずほぐれつ絡み合う因果めいた展開は、他のキャラには出せない特別感があってよかったです。庭でそれぞれ月を見上げつつ相手のことを思っているのに、正反対の結果を望んでいるのも切なかったね。

 

◆景時

女子高生の足元に縋り付くダメな軍奉行。なのだが、ダメな部分が鮮明になればなるほど、必死に飲み込んでなんとかしようとする足掻きや、どうにもならない強い諦めにがんじがらめになっている人間臭さが明瞭に見えてきて、ストーリーが進むほど魅力が増していったように思う。どうしようもなくなって戦いを引き延ばそうとして、九郎からも部下からも怪しまれてしまうのなんか逆に素直すぎて笑ってしまう。源氏の軍奉行がそんな素直で務まるんか。

展開における風呂敷のたたみ方は一番綺麗だったように感じた。今まで嘘を重ねて生きてきた景時を、望美ちゃんがまるごと信じてくれたからこそ、最後まで嘘をついて仲間を救う。嘘とハッタリが景時を景時たらしめていて、2人は遠く離れた場所で互いに違う相手と対峙してはいたけれど、共に背中を預けているような不思議な感覚があった。頼朝さまが亡くなった後も、どうか史実どおりの展開にはなりませんように。

 

◆弁慶

はい、なんでも飲み込んで一人で抱えてニッコリ笑っちゃう系男子が来ましたよ。いけない人ですね。お前がな。絶対バッドEDで輝くタイプだ、もっと腹の中のドロドロしたものを見せてくれてええんやでと思っていたら、ちょっと好感度が上がった途端に敵の船を容赦なく燃やし始めたので喝采をあげた。

このイベントの魅力は、強く咎める望美に対して、単に制止を振り切って燃やすのではなく、一旦「わかりました、止めましょう」ってニッコリ告げた後、こっそり予定通り放火してるところです。望美をこの場から追い払うにはどういう言動が効果的かがよくわかっている。そして望美から何と言われようとも、計画を変更するつもりはない。この頑なさと冷酷なまでの合理的思考を見せつけられれば見せつけられるほど、ふとした瞬間に漏れる葛藤に、得も言われぬ魅力を感じるのです。

優れた洞察力と、心情を隠して微笑む仮面の厚さがあればこそ、弁慶は生きてくることができた。その高い能力故に、戦いの後に九郎が追われることに気づいてしまうわけだけど、「頼朝側に寝返る」選択肢もあったはず。でも弁慶は憎まれ役を買ってまで、結果的に九郎を守る道を選ぶ。彼の人生における、九郎という人間が占める重さを想像すると、秘めた内面がひどく純粋であることに驚くし、だからこそ「純真であり続ける」望美の言葉は鋭い刃そのものだっただろうな、と思わずにはいられんのです。

望美は正しい、どこまでも正しい。でも弁慶だって間違っているわけではなくて、正しさだけでは大事なものが守れないことを痛いほど知っているだけなのだ。それで尚、曇りのない正論で殴り続ける望美ちゃんには、もうやめてあげてくれと何度も懇願してしまった。あえて泥水を飲む人間に、まっさらでいつづけることを許された人間が正しさを主張するのは傲慢なのではなかろうか。誰もが望美ちゃんのように強くあれるわけではないし、ある意味では弁慶さんもとても強い人なのだよ。とても弱くもあるけれども。

そして弁慶さんの十六夜EDは、もう本当になんで、なんでそこで死なせてあげてくれんかったんやとこっちが怨霊になりそうな勢いで無念であった。あの立ち往生で終わっていたら、個人的本作ピカイチベストEDだったのに……そこで現代から戻ってきて2人でフワフワ現代で暮らしたらいけん…いけんよ……。