立ち往生

基本的にネタバレに配慮していないのでご注意ください。

遙かなる時空の中で6・コハクルート感想

薄桜鬼SSLの唐突なドラマ化に、お茶を吹くどころの騒ぎではなかったGW明けだった。変若水キメた沖田にケンカ売った薫を見る千鶴みたいな顔になった(ややこしい)。死出の旅を見届けたい気持ちはあるので、ぜひ広島でもリアルタイムで見られる放送枠であってほしい。

なんというか、薄桜鬼って、常に愛と戸惑いが混ざってやってくるゲームだな。Vita移植で初めて触れた私ですら戸惑いがこれだけ大きいんだから、昔からのファンの方々の悟り具合たるや想像を絶する。カズキヨネさんに、薄桜鬼について今抱く気持ちを是非誰か訊いてほしいし、とにかくカズキヨネさんに寄せて描いてほしいと言われている(かもしれない)現在のイラストご担当者さんにも話を訊いてみたい。売れればなんでもいいのだし、パイが大きくない以上取れるところからとことん取るのは正しい戦略だし、看病してくれる斎藤さんに払ったお金がルパンの美しいスチルの足しになったのかと思うと、もう目的地がどこでもOKみたいな気持ちになってくる。かもしれない。
 
SSLはあくまで派生であり、ゲーム作品ではないから、アニメ化しても出演はしない、と決めているメイン声優がいるという噂がもしも本当ならば、作り手側の方にもいろいろと思うところはあるんだなあ、とは思う。
 
●コハク
ピュアボーイその2。裏のメインキャラというか、ストーリー全体を見ても終わり方を見ても、遥か6というゲームのキーポイントになる子なんだなあと思う。

記憶を持たない分、梓にも変な執着がなく(別にダリウスがどうとか言ってません)、1+1が2になる、というぐらい当たり前の顔で、梓のために身を引く覚悟を決めていたのが印象的な子だった。それは決して梓を大事に思っていないからではなくて、自分が失ったものを一緒に探してくれた梓には、何物をも失わせてはならない、という本能的な部分が理由だったように感じた。もちろん嫉妬心や執着を見せるシーンもあるのだけど、ダリウスの屋敷から逃がそうとしたり、梓が消えても1人で生きていけるよう現実的な算段をしていたり、「梓に幸せでいてほしい」が最優先事項で、自分のことはほとんど顧みない自己犠牲感が、まるで聖人のようだった。
 
愛されていなかった人にはできない笑い方をするから、コハクにも慈しんでくれた家族がいたはず、という梓の視点がとても鋭いし、無条件に自分に信頼を預けてくれる梓は、拠り所のないコハクにとって文字通り本物の女神様だったんだなあと思う。梓のことだと明かさずに、恋をしているのだと告げるシーンは切なかった。告げる側のコハクは、梓が気づかないことをおそらく分かっている。分かっているから言えるのだ。

それも自分の思いを伝えるためというより、いのち短し恋せよをとめ、誰かを思うことの素晴らしさを梓に伝えるために言っているのがたまらない。明日の月日はないものを、今日はふたたび来ぬものを、今という記憶は過ぎた瞬間に失われることもあるのだと、コハクは知っているのだ。届かなかった思いはどこへ行くのだろう。思いの明度が高すぎて目がくらむ。
 
コハクが記憶を失うことで梓と出会い、2人で記憶を取り戻し、そして最後は梓が記憶を失うことで、再びコハクと出会う、という始まりから終わりまでの流れが本当に美しかった。相手の命を助けることで記憶を失う、というのは王道展開ではあるけれど、相手が全く記憶を持たない状態で出会ったからこそ、積み上げてきた記憶の重みが増すし、その記憶をすべて失う意味の大きさに打ちのめされる。

ストーリーはここで終わりだけれど、これから2人はまた記憶と時間を一緒に積み重ねていくんだろう。現代に還ってくるべくして還ってきたというか、余韻の残るいいルートだった。