立ち往生

基本的にネタバレに配慮していないのでご注意ください。

CLOCK ZERO~終焉の一秒~Extime・鷹斗ルート&レインED感想

鷹斗

この人以外最後はありえない王様ルート。チェスにおけるキングって、敵に奪われたら試合終了な最重要の駒なんだけど、自分で動ける範囲はルークやビショップよりよっぽど狭い。不自由で弱い駒なんですね。可能性の高さは無限大なのに。

でも鷹斗は頭おかしいけど、他ルートで見せつけてくれた頭おかしすぎて震える行動が、頭おかしくて切なくてかわいそうに思えてくるルートだった。ただただ愛おしかった。時々背筋が凍ったけど。

 

頭いい人がキレたら手に負えない、を地で行く鷹斗に円が苛立ちをぶつけるシーンは、円の気持ちを想像すると切なくなる。罪悪感と「撫子さえいなかったら」の苛立ちと、地に足がつかない鷹斗の高揚に挟まれて、イラッとくる気持ちはよくわかる。

「あなたの願いはもう叶ったんだから」と言い放つ円。円の願いは叶っていないし、叶うかどうかすらわからない。それ以上に、鷹斗の願いは実際は叶ってなんていないのに、円は叶ったと思っている。このすれ違いがまた切ないです。

 

基本的に頭おかしい鷹斗ルートで一番好きなのは、撫子を言葉で引っ掛けてキスをさせるシーン。こうして撫子を無理矢理未来に連れてくることに意味なんてないことは、きっと鷹斗が一番分かっているのだ。

けれど嬉しくて、恐れてほしくなくて、どうしたらいいかわからない。頭がよすぎて一周回ってバカ、って、鷹斗みたいな人のことを言うんだな。嫌われるのが分かっていながらわざと陥れるようなことをする。

この時、怒りの中でも「どうして自分で自分を傷つけるようなことをするのか」と、鷹斗のことを理解しようと考えていた撫子ちゃんにあっぱれである。何回あっぱれ出しても足りない。こんな一周回った変態を受け入れようとするなんて。撫子ちゃんが世界統一すれば平和になるんじゃなかろうか。鷹斗は性格の歪みのためか不思議な人体のスチルが多かったけど、このキスシーンスチルはとても綺麗だった。

 

撫子のために躊躇なく敵の前に出ようとする鷹斗は、本当は死にたかったのかもなあと思った。心が死んでいても、生きていかなくちゃいけないのはなぜなんだろう。

壊れちゃうバッドEDは最高だった。子どもは脆いものを大切にできない。大切にしようとして強く握りしめて壊してしまうだけ。堕ちるところまで堕ちていく鷹斗の後ろで微笑むレインさんを想像すると胸が震えます。盛り上がってまいりました。

 

そしてやっぱり、現代帰還EDがふるっていた。自分の勝手でこっちに連れてきたのに、自分の勝手で無理矢理返す。「そうだよ、僕は傲慢なんだ」と言う鷹斗は確かに傲慢以外の何物でもない。受け入れさせておいて、自分のいない世界で生きろ、なんて。

 

最後は撫子の幸せのために返したようにも思えるけれど、撫子が死ぬところを見たくない自分のために返したとも取れて、その弱さの入り込む隙を残すあたりが鷹斗らしいなと思った。自分本位の貫き方を、自分の側に最後までいてもらうことじゃなくて、撫子の気持ちを無視して返すことで通すあたりが。

最後の最後で目覚めた未来の撫子が、ちゃんと鷹斗のそばにいてくれたらいいなと思う。というか、撫子ちゃんがいないと、鷹斗さんすぐ世界を壊しちゃいますんで。

 

レインED

ここまでキング語りをしておいてアレなんだけど、私は鷹斗よりもレインに非常に萌えて、もう萌えて萌えて、胸を鷲掴みにされてしまって、たまらんかった。序盤は存在感が薄いのに、後半にかけてグイグイ活躍し、キングと共に最後まで盤に残ることが多い駒であるルーク。通常一手で動かせる駒は1つですが、キングとルークは条件次第で一緒に動かせるという特別な手もあるそうです。

 

ふとした瞬間の「鷹斗くん」「撫子くん」呼びにゾックゾクする。世界への絶望と諦め、鷹斗への羨望と嫉妬と愛情で歪みに歪んで、がんじがらめになったレインの「そんなことを言うなんて、まるで人間みたいじゃないですか」が、もうね。

「自分のことを、同じ部類の人間だと思って安心している」と鷹斗を評していたけど、未来を望まず時を止めたまま、成長を拒んだのはレインも同じで、鷹斗に同じ場所にいてほしかったし、もっともっと堕ちてほしかったんだなあ。

 

本当は妹と親友を失って寂しくて、ただ寂しくてどうしようもないだけなんだけど、その喪失を、姿を少しも変えない世界への怒りに変換することで、レインはここまで生きてこれたんだとも思う。

「この世界はもっと不幸になるべきだ」と語った真意はどこにあるんだろうとずっと考えていたけど、レインが不幸にしたかったのは撫子を手に入れた鷹斗であり、妹を奪ってなお平然と存在する世界そのものであり、そこで死ねずに生きている自分自身だったんだな。

 

「愚かさも誠実さも持てない」と評された円が、レインと対峙しながらも、レインを助け出すことはしないのが、すごくよかった。助けるなよ助けるなよ、と念じながら読み進めた。円はレインのどこに憧れていたんだろう。でもレインも円を気に入っていたのがやっぱり嬉しかった。

円ルートで、レインが撫子にストラップを渡したのは、鷹斗からどこまで逃げ切れるか、愚かな人間の可能性に賭けてみたくなったんだろう。と同時に、円が幸せになればいいと確かにどこかで思っていたんじゃないかという気がする。こういう、はぐらかしにはぐらかしを重ねて、弱くて脆い本心をとことん覆い隠す、頭がキレすぎて大事なことを見落とす人が心から愛おしい。たまらない。

 

オリジナル版ではレインEDは存在しなかったそうで、このEDを生み出してくれたのは本当に土下座したいぐらい嬉しい。このEDを見てこそ、CLOCK ZEROのゲームを終えられるように思うし、逆に言えばもうFDなんかは出してほしくない。それぐらい美しくまとまっていると思う。

これだけ違和感のない追加シナリオを作り出せるのは簡単なことじゃない。央ルートもそうだけど、元々の世界を壊さず、さらに重厚にしていく感じ。

 

アフターストーリーの「愛している」は正直やりすぎだと思ったけれど、止まっていた時間を動かしてくれた撫子に惹かれる気持ちは自然に思えるので、3人暮らしの描写はとてもおもしろかった。少し惹かれていきながら、鷹斗と撫子の仲を引っ掻き回すことを楽しむぐらいの立ち位置がいい。

大事なことをはぐらかして英語でしか言わないのはすごくレインらしくて床を転がったし、髪にキスしたり、カエルくんを初めて手から外して撫子に触れたり、なんかもうクラクラした。たまらん。ときめきで視界が歪むって初めての経験だった。攻略キャラじゃないキャラでここまでかっさらっていくって何? なんなのこのゲーム?

 

号泣したのは円・現代帰還EDだったけれど、何度でも見たいのはレインEDだった。このゲームの真骨頂は現代帰還EDであり、未来世界での思いも記憶も、覚えていられるのはプレイヤーだけだから、帰還EDでの幸せが輝くのだと思う。10年後の自分へ宛てた手紙も、いちいち胸に迫る。

矛盾点は正直いくらでも挙げられるけれど、みんなでタイムカプセルを掘り起こすEDもとても好きだ。人生には無限の分岐点があり、それぞれにそれぞれの結末が存在するんだなあ。

 

時間は決して止まらないから、戻れないから、今が愛おしいのだなと改めて思う。使い古された言い回しだけれど、変わるからこそ人間で、変わらないからこそ人間で、生きるって愛しい仕事だなと感じた。切ないゲームだった。プレイできて本当によかった。

 

それにしても乙女ゲーを遊ぶたびに、自分の萌えポイントが行方不明になっていく。幼なじみ・ツンデレ・前野ボイスが揃った理一郎なんて、絶対好きだと思ったんだけど、終えてみたら円とレインに周回遅れな感じだった。本心をひたすら隠す人が好きなのかなあ。