立ち往生

基本的にネタバレに配慮していないのでご注意ください。

剣が君 for V・螢、実影ルート感想

剣が君 for Vを満喫しております。

好きだろうなあ、頭の上までどっぷり浸かって戻ってこれなくなるだろうなあ、と思っていたけど、実際その通りになっている。まだ全員クリアしていないけれど、ほぼ全員、予想通りに「剣」ルートで大号泣祭りが繰り広げられているし、気を抜くとすぐにVitaに手が伸びるので日常生活が危険。早くコンプしたいけどプレイを終えたくない。

 

一応おすすめ攻略順をチラッと調べてはみたんだけど、「一番好きそうなキャラから特攻するのが正義」と信じて、けんぬボイスの螢から始めることにした。ネタバレが気にならないわけじゃないけれど、まっさらな状態でストーリーを追うのは、やはり一番好きそうなキャラがいいと最近思い始めたのである。一周回ってやっぱり手堅く麻央と結婚した海老蔵ってこういう気分だったのかな。知らんけど。

 

花嫁道中当初の、身内と他人をきっちり分けて接する厳しさがとてもよかった。最初は当然ながら守られてばかりの香夜とも、所々で距離は近づくものの離れたまま。

螢が可愛いのは、仕事だと割り切るなら香夜にも他メンバーにも適当に接していればいいものを、苛立ったらきっちり向き合って喧嘩するところで、悪ぶるのに悪くなりきれないところが世話焼き体質だなあとしみじみした。

 

【君ルート】

螢が優しくするもんだから、お里さんがどう絡んでくるかとビビっていたら全然絡まず、そうかと思ったらいきなり婚約者が出てきたりするので油断できなかった。しかも「御前試合なんかどうでもいい」とか言い出してVitaを持ったままひっくり返った。

それでも、反発しあいながらも香夜ちゃんに惹かれていき、惹かれていくほど素直になれずにぶつかってしまう展開が甘酸っぱくて甘酸っぱくて、もう鬼でもなんでもいいじゃんいいじゃん!!!剣取り試合もどうでもいいじゃん!!!という気分にさせられたから、剣が君ってすごいゲームだ。

 

香夜パパの頭の硬度と、料理茶屋における塩の消費量が大変なことになっていたルートだったけど、幸魂エンドはまさに少女漫画を地で行く展開の末の大団円で、後日談も含めて非常にときめいた。あの螢が、力に頼らず相手とわかりあう方法を探そうとするんだから、恋の力というのは本当にすごいものだ。御前試合なんかどうでもいい展開(ひきずってる)も素直に受け入れられた。

もう二度と大切なものを失いたくないがために剣を取り、大切なものができた後は、それを守るために剣を捨てる。力のあり方について、胸に染みるルートでした。和魂エンドの後日談は痛ましくて正視できなかった。後日談がエンディングでの印象をちゃぶ台返ししてきたりするから、このゲームほんとすごいよ(2回め)。

 

【剣ルート】

始める前から予想はしていたけれど、やっぱり剣ルートが好きだと思う。剣を振るうならば、剣に生きて、剣に死んでほしい。だからこそ一瞬の恋が切ないのだ。

 

とはいえ、後日談で幸せに回収される奇魂エンドはともかく、荒魂エンドの衝撃はすごかった。刺されるその時まで、ああいう展開になるとは思いもよらなかったし、自分では手を汚さずに裏から人を操る辰影の動きや、この時代における生命の重さの差がリアルで、吐きそうだった。小さな身ながら、夢を叶えるためになんとか辿り着いた場所も、大きな力の前に素気なく跳ね返され、いとも簡単に命を奪われる。

それでも螢が香夜の元まで辿り着き、彼女の腕の中で死ねたのが、螢らしくて誇らしくて悲しくて、さびしくてたまらなくて、これまた吐きそうなぐらい泣いた。自分で殺しにすら来ない人間のために大人しく死んでやる必要はないし、死に場所は自分で掴みとったんだなあ。

乙女ゲームをプレイしているのに吐きそうになってばっかりだけど、螢のいない時代をきちんと生きる香夜たちの姿まで描き切ったこのルートに心を鷲掴みにされた。

 

実影

【君ルート】

螢もそうだったけど「君ルート」は、キャラたちが心に通していたはずの、剣に対する一本の思いが簡単にグラつくどころか転がり落ちるみたいな展開が多い。他キャラもそうなのかな。実影が自分の過去をバババーッと一方的に喋りまくったあとに、いきなり「あなたを好ましく思っている」とか言い出した時は恐怖した。そのあと、寝こけた香夜を夜まで起こさずに「それとも…泊まっていくか?」とか言い出したので、お松ちゃんはもう一度心を改めて仇討ちを目指すべきだと震えた。

御前試合もあっさり負けて続報が入らないし、無邪気に喜ぶ香夜の前で半ば呆れ顔の道場奪回・実影スチルに萌え転がった1/3の純情な感情が空回り。

 

それでも実影は、頬染めてんのか染めてないのか、Vitaの角度を変えて凝視しないとわからないレベルのムッツリではあり、香夜と接するにつれ、人間っぽい部分がどんどん見えてくるのが面白かった。

本を読ませるシーンは、巻き込んではダメだと分かっているからオラショは教えられないけど、一人で信仰を守ってきた孤独を癒してほしい、そんな相反する気持ちが表れていてすごくいい。当初の実影は親切ながらも他人行儀さを隠さないので、この距離の縮まり方は本当に嬉しかったし、もうどうでもいいから幸せになれよ実影、と思わずにはいられなかった。

ちなみに和魂エンドは、不殺の誓いをたてたるろうに実影が、香夜殿に出会って料理人になるまでの話だった。

 

七重と長七郎が出てくるラストシーンは、2人と共に麓へ逃げろ、という言い方をわざわざ変え「2人を麓へ連れて行ってほしい」と言い直したのが印象的だった。実影を置いて逃げろという言いつけに、香夜が素直に従うわけがないことをよく分かっている。だからこそ、香夜にしかできない役目を与えるような言い方をする。

このあたりの冷静さと、薙刀を構えておくよう言いながらも、香夜たちのところまで敵を通すつもりが1ミリもない負けん気の共存具合。戦いの中で楽しそうな素振りを見せたのが初めてだったので、かなりジンときた。ルートの最後を盛り上げるに相応しいシーンだったと思う。

後日談では破顔して笑う実影も見られたし、どんどんワガママを言って幸せになればいいと思う。ただあの右手を前に差し出す立ち絵で定食を出されると笑わずにいられる自信はない。

 

幸魂エンドのように、ふたりで逃亡する終わり方は、ある種バッドエンドのような空虚な明るさがあるところが魅力なんだろうと思う。香夜はすべてを捨てて実影と隠れ里で生きることを選び、実影は香夜にすべてを捨てさせた後悔と、そうさせたのが他でもない自分であることの仄暗い満足感を抱いて生きていくんだろう。

世界と切り離されたままふたりで生きていくことは、不幸であるのか幸せであるのか判断がとても難しい。

 

【剣ルート】

実影幸せになれとは思うけれど、実影の剣ルート・荒魂エンドは1、2を争うぐらい好きかもしれない。剣を振るうことで罪を背負い、剣を捨てると決めていた実影が、守りたいもののために再び剣を振るう。殺すためでなく守るため。黄泉路を閉じることを決めたとき、自分の剣の腕と大典太の存在を忌んでばかりだった彼が、生まれて初めて、自らの人生そのものに意味を見出したのだと思う。

そして、ようやく生きる意味を見つけた瞬間は、死なねばならない瞬間であったことが、皮肉で切ない。こんな運命があるんだろうか。生き長らえてきた意味を見つけ出した実影が、この国と香夜を守るために、死ぬことを僅かも躊躇していないことがたまらないし、香夜にはそれを一切告げないところがまた、涙腺を崩壊させて余りある。

 

後日談でのハバキとのやりとりが更に泣けた。死ぬ瞬間を看取れていない、死んだ姿すら目にしていないなら、「もしかしたらどこかで生きているかも」と考えてしまうのは当然だと思う。ハバキの声が優しくて、香夜と一緒になって泣いた。それにしても七重の役立たずさときたら(憤怒)

 

奇魂エンドは、後日談を加えると切なさどんでん返しで、ああやっぱり剣に生きる実影は、香夜ちゃんと一緒に生きることはできないんだなと思った。傷つけたくないがために遠ざけるというのは、ある意味ありふれた展開ではあるけれど、この不器用さが実影らしいし、優しさと苦しさが実影らしい。実影にとっては香夜ちゃんが幸せであることが唯一の望みであり、自分の幸せや生き死には二の次なんだなあ。

 

「幸せでいてほしい、たとえ隣りにいるのが自分でなくても」というようなセリフがあったけれど、この言葉が実影さんそのものだ。

もちろん香夜ちゃんは、たとえ日本が滅びてしまったとしても、実影さんといられることが幸せで、実影さんはもちろんその気持ちに気づいている。

 

実影さんが悲しい人だなと思うのは、気づいておきながら気づかないふりをして、香夜ちゃんに何も告げなかったり、何も言わせなかったりするところだ。最後まで不器用にしか生きられないし不器用にしか死ねない、寂しくて悲しくて、優しい人。どうか幸せになってほしい。