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立ち往生

基本的にネタバレに配慮していないのでご注意ください。

剣が君 for V・鈴懸、縁、九十九丸ルート感想・総評

鈴懸

天然最強ですごくいい子なんだけど、家光様にもひたすらタメ口で誰にも敬語が使えないところがどうにも気になってしまった。「人間のテリトリーで生きるなら人間のルールを覚えないと」みたいなことを、他の誰かのルートでマダラが言っていた記憶があるけど、これだけ上下関係をガン無視する子が生き長らえることができるなんて、ファンタジーすぎてぜんっぜん信じられないYO! ガチ切れする辰影の気持ちもよくわかる。

とはいえ、九十九丸に嫉妬して木霊の声が聞こえなくなったり、香夜を傷つけられたことで、自分の中に眠る凶暴さを知ったり、そういう「大人になっていく」展開はとてもよかった。

清らかなままでいることが貴いわけではなく、汚れた部分も知りながら尚清らかであろうとすることが貴い。ぜひこのまま、天然ぶりを全面に押し出すナチュラル黒いキャラとして大成してほしい。

 

鈴懸には、剣のために生きるという選択肢が最初からなかったので、剣ルートでまさか死ぬとは思わなかった。鈴懸の着物を持って高尾山に行く後日談はキツかった。大好きな人がいなくなってしまった悲しみを、誰にもぶつけることができずに生きている、残された人たちの姿を見るのは辛い。

ただ、ルートのどこかで「僕はきっと君に会いに行くよ」というセリフがあって、鈴懸は死んだあとも本当に香夜に会いにきたんだな、と思うとまたVitaが涙で濡れる。

 

マダラの「どうして死んじゃったの、鈴懸」という叫び声が本当にしんどくて、ああ人が死ぬってこういうことだよなと改めて思った。きれいな死に方なんてこの世にはひとつもない。鈴懸との一瞬の逢瀬の後は、香夜はまたひとりで生きていかなくてはいけない。

ひと一人の死について、美化することなく描き切っているところが、剣が君の大きな美点だと思う。生を描くためには、死をきちんと描かなくてはいけないから。

 

将軍家に近い場所にいる人だということは分かっていたけど、まさか家光の養子だとは、本人のルートに入るまで分からなかった。縁のルートを終えてみると、実影ルートでの縁の言動が味わい深い。

自分が求めても得られない力を持っているくせに、それを振るおうとしない人を見るとイライラするだろうなあ。自分に力があれば、香夜を脅して実影の家まで連れて行くようなこともせずにすんだのに。将軍家に反発しつつ、将軍家の権力を駆使しなくてはならず、香夜に辛い思いをさせてしまう、縁の人間くさい葛藤がじんわり来るシーンです。これ実影ルートの話ですね。

 

縁は花嫁行列中から、バカ話をしながらさりげなく話を聞き出すスキルがマックス頭打ちで、受け止めた姫を心配するそぶりを出しつつ数珠丸の無事を確かめてきた時にはヒエエと声が出た。道化に徹して場を保ち、自分の目的を淡々と遂行していくその手腕。馬から直接香夜を攫おうとしたシグラギを「させるかよ!」と剣で遮った縁に心底ときめいた。あのシーンは、最初に矢を叩き落とす実影も含めて見どころ満載の、楽しいシーンであります。

そんな器用さもありながら、大金を使ったり物をあげることでしか愛情を表現できない、ズレた不器用さもあったりして、誰より大人っぽいのに誰より子どもであるような、かわいい人だなあとしみじみした。

 

剣ルートも君ルートも、どのエンディングも縁にとってはある意味幸せな結末なのかもしれないと感じた。バッドっぽい奇魂エンドでさえも、つらかった出来事をすべて忘れて生きていけるならこれほど幸せなことはないんじゃないかと思う。

 

九十九丸

肌が冷たいのも姿が子どもっぽいのも、何を食べてもお腹を壊さないのも、果ては野宿すらも伏線だったので度肝を抜かれた。他の5人が完全にログアウトしていくストーリー展開だったので、九十九丸をラストにしたのは正解だった。

 

花嫁行列中、障子を背中合わせに座って九十九丸の話を聞くシーンが、恋のはじまりすぎてどういう顔をしたらいいのかわからんかった。声を聞くと安心するのは恋ですよ。それは恋ですよ香夜ちゃん!! ハヤトに手紙を託してくれる場面もそうだけど、行列中は螢アニキの当たりがきついだけに、九十九丸の優しさがひたすら沁みる。

九十九丸はこういう、幼い日の初恋みたいな甘酸っぱいシーンが多くて、納屋と母屋にいるのにハヤトに託して手紙で会話したり、納屋で一緒に寝転んでみたり、もう甘酸っぱくて甘酸っぱくて赤い実がはじけすぎて私の頭もはじけそうだった。

 

だからこそ後半の展開でのダメージが大きいというか、TMレボリューション的立ち方の師匠と一緒に常世に引きずり込まれてみたり、冷気使い・九十九丸がヤンデレと化したり、小野友樹ボイスの幅広さをとことん味わうことができた。へしゃげた心を、後日談でしっかり地面に叩きつけてくれるこの感じ、嫌いじゃないです。ヤンデレストーカーと化して、背後から「ひどいじゃないか、香夜」とか冷え冷えとした笑顔で声をかける九十九丸、嫌いじゃないです

 

色っぽく成長した幸魂エンドはとてもよくて、ふたりとも禿げ上がるくらい幸せになってほしかったし、5人と一緒にデバガメしたさで床を転がった。「結婚しよう」じゃなくて「一緒に生きよう」というのもたまらん。一度死んだ九十九丸ならではのセリフだ。だけど、なんだけど、やっぱり荒魂エンドを見ると、剣が君における真の終わり方は「剣」ルートなんだなと感じずにはいられなかった。

外にいる敵ではなく、自分の中にいるマレビトと戦って勝つため。自分自身を守るため。そのために振るう剣。「俺を守る剣がキミなら」のセリフにゾクッときました。ここでタイトルを回収してくるとは思ってもいなかった。ああこれか、これがあるから九十九丸はセンターキャラなんだな。君が剣、なのではなく、剣が君、なんだな。

 

というわけでめでたくコンプリートして、最後に実影の荒魂エンドをもう一度見た。全24種類のエンディングのうち、これが一番好きかもしれない。

実影のセリフを振り返ると、「これが永遠の別れになるのではないか」と心のどこかで予期している香夜に対して、「必ず生きて戻る」とか一切言わないのが、また実影らしくて仕方がなかった。こんな場面でさえ、気休めの嘘もつくことができない、頑ななまでの真っ直ぐさ。「ありがとう」と告げるだけ、抱擁もない。一瞬の口づけだけ。この万感の一言「ありがとう」が涙腺を崩壊させる。去り際に香夜が振り返った実影の背中はどんなものだったろう。

縁だったら「帰ったら姫が真っ先に出迎えてくれなきゃなんだからね~」とかはぐらかしそうだし、九十九丸なら「大丈夫ですよ。俺はそう簡単に死にませんから」とか嘘でも笑顔で言いそう。

 

香夜が実影に会うため、大丈夫だと言い聞かせながらも「どうして涙が止まらないんだろう」と考えながら走るシーン、洞窟内で一瞬だけ幻の実影と手が触れ合いそうになるシーンも、切ないという語彙でしか表現できない自分がもどかしい。

プレイヤー側は、異なる選択肢を重ねていけば、実影も死なずに、香夜とふたりで幸せに生きられる道があることを知っているだけに、剣ルートエンディング曲の歌詞「幾重に分かれた旅の岐路の中 戻れないことを知って送る」が沁みる。

行かないで、と香夜は言わなかったのか、言えなかったのか、ようやく傷つけるためでなく守るために剣を振るえる実影が、殉じることに喜びすら見出しているだけに、ただ黙って見送るしかできないのが切ない。切ない。切なさで息切れ。

 

スチルの質感と色っぽさが、瞬きするのも惜しいぐらいの迫力で、シナリオやおまけのボリュームも凄まじかったし、最初から最後まで楽しめた。未読まであっさりぶっとばすジャンプ機能や、動きに戸惑う早送り機能は使い勝手がよくなかったけど、大好きな1本になりました。

 

ここまで書いて思ったけど、もしかしなくても実影さんは斎藤一ポジションか。そう考えると、好きにならないわけがない立ち位置であった。