立ち往生

基本的にネタバレに配慮していないのでご注意ください。

Free!2期感想②~はじまりのエターナルサマー

映画版「ハイ☆スピード! -Free! Starting Days-」公開中のアニメ・Free!2期感想、後半戦。

前半はこちら。

noragohan.hatenablog.com

 

 

●このままじゃだめなのか


周りは前に進んでいき、凛も真琴も自分から離れていくことを感じ取り、遙は立ち止まったまま動けなくなる。今まで誰よりも自由であり続けた遙が、最も自由なはずの水の中ですら進めなくなるシーンは胸が痛い。

怜から背中を押された時にはまだ冷静でいられた遙が動揺したのは、ライバルである凛も、これからも変わらず隣りにいるものだと信じていた真琴ですら、自分の道を見つけ、ここから離れていくのだと突きつけられたからだ。遙にはまだ、別れと旅立ちの違いがわからない。
(ちなみにこの放送回のタイトルは「運命のネバーターン!」。「ネバーターン」は背泳ぎのターンのことで、真琴が方向転換し、別の方向へ進んでいく、という意味が込められているんだと思う)

このままじゃだめなのか、と激昂する遙よりもずっと、仲間たちのほうが遙の才能を理解している。自分だけで精一杯な視野の狭さ、それなのに自分のことさえちゃんと見えない苦しさ。遙は1期1話冒頭で「二十歳過ぎればただの人」「ただの人まであと3年か」と自嘲していたように、高校卒業後も競泳に挑める才能が自分にあるとは思っていない。こんなにも才能に溢れているのに。仲間たちにはそれがもどかしい。

タイムや勝ち負けに拘りたくない。ただ仲間たちと泳いでいたい。夢なんて見つけようにも見つけられない。このままでいたい。
思春期に誰もが一度は抱くモラトリアム症候群、この苛立ちと葛藤を甘酸っぱく感じるのは、もう私達は子供の頃に戻ることができないからだと思う。時間は止まらない。青春時代がこれほど煌めくのは、もう二度と戻ることができない刹那の時間だからだ。

 


●真琴と凛の立ち位置の違い


怜と渚は、遙に声援を送ることができる。真琴は遙の隣りに寄り添うことができる。でも、新しい景色を見せてやることは、凛にしかできない(それをちゃんと理解している真琴よ…)。凛はオーストラリアで遙に色々な風景を見せる。あの遙が水着を着ていないなんて状況にも、凛は全く驚かない。

「夢が見つかったら、お前、どうする?」と楽しそうに語りかける凛は、辛抱強く遙を待っている。遙が「見たことのない景色」を見せてくれたことで、凛が夢を見つけたように、「見たことのない景色」を見せれば、遙が夢を見つけられると、凛は信じているんだと思う。
そしてその通りに、遙は道を見つける。ここで遙が言う「泳ぎ続けたい」は、1期から何度も口にしていた「俺は泳げればそれでいい」とは、似ているようで全く違う。温かい巣から出て一人で歩きだすことを決めた、決意の言葉だ。

この放送回のタイトルは「異郷のスイムオフ!」。同じタイムを記録した水泳選手二人が、決勝などへの進出をかけて再度競う特別な戦いのことを「スイムオフ」と呼ぶんだそう。次の舞台で戦うために、遙と凛はオーストラリアで、二人だけの特別な戦いの場を持ったわけだ。タイトルだけで泣かせにきてる京アニさんの本気。

 


●遙の成長


帰国後、見つけた夢を遙が岩鳶メンバーに話し始める前、川の上流を3匹の魚が泳いでいる。話し終えた後、群れに1匹合流し、4匹で泳いでいる。こういう表現が本当に細やかだ。他の3人より遅くはなったけれど、遙もようやく未来に向かって歩き始めた。

遙の成長がよく表れているのが、観客席で真琴の話を聞くシーンだ。キラキラした顔で将来の夢を語る真琴に、もう二人の道が完全に分かれたことを実感する遙。これからは一人で進んでいかなくてはいけない。けれど、淋しそうな目をしながらも、これでいいんだと言うように笑い、「いいんじゃないか」と真琴の背を押す。
ここの芝居と演出が見事というしかなくて、真琴(話すことが遅くなってしまった後ろめたさ、隠し切れないワクワク感)と遙(改めて互いの旅立ちを目の当たりにした淋しさ、未来へ進むために別れを受け入れなくてはならないという自分への叱咤)それぞれの心の動きが丁寧に丁寧に描かれている。巣立ちの時だ。

夕食後、遙は「たとえ違う道に進むとしても、俺達はずっとつながっている」と言う。別れと旅立ちは、同じようでこんなにも違う。
ちなみに、テンションの上がった渚が来年の話をとめどなく喋るシーンの芝居が私は大好きだ。怜が苦笑しながら、来年は遙と真琴はもうここにはいないことを指摘し、渚が「あ、そっか」と唐突に言葉を切る。この「あ、そっか」の代永さんの芝居がたまらない。1期・2期を通して25話中、いちばん好きな渚のセリフだ。

このままずっと、ここにいられたらいいのに。かつて思春期の終わりに立った時、私も確かにそう思っていたような気がする。

 

ほんとうに出会った者に別れはこない(谷川俊太郎「あなたはそこに」)

 


●はじまりのエターナルサマー


仲間たちと共に泳ぎ、同じ景色を見た、かけがえのない永遠の夏は、それぞれの夢のはじまり。1期で使われた「for the team」というフレーズと見せかけて「for the future」と示したのには、思わずあっと唸らされた。そして、世界の舞台で戦う遙と凛の姿が、「Free!」制作を告知する京アニCMと重なっていくわけだ。最初から京アニの手のひらの上。

旅立ちの朝に、見上げる空に、
見送るだけの思い出なんかじゃない
いつだって瞬きもせずに 追いかけた鮮やかな日々
「Clear Blue Departure」

 
いまは未来のはじまり。未来に向かって歩いていけるのは今があるから。

というわけで「Free!」は、思春期の頃の揺れ動く思いを追体験させてくれる、甘酸っぱくてキラキラしたアニメだった。確かに女性向けではあるけれど、女は男同士の友情に憧れたり夢見ちゃったりするところ、あるんです。

青春の甘さも苦さもそれはもう細やかに描かれているから、もう大人になってしまった人にこそ見てほしいし、もう思春期には戻れなくて、青春時代の回想に浸るしかない大人が見るからこそ良さがわかるアニメなのかもなあと思った。

 

思春期って尊い。青春時代ってアツイ。二度とないものだから。

だけど、「二度とない」ことなんて渦中にいる時はわからないから、きっと青春は輝くのだろうと思う。