アイドリッシュセブンの最新曲「RESTART POiNTER」が大好きだ。
7人が歌う曲は明るくて前向きなものが多いけれど、この曲はどれとも違う、静かな決意が滲んだ歌だなと思う。なぜそう感じるのかというと、きっと歌詞が「これから先も続く長い戦い」を予感させるからだ。
これからも何度も、進むべき方角を見失って立ち止まるだろう。そのたびにここに戻って、また歩き始めればいい。だからタイトルは「RESTART POiNT(再出発の地点)」ではなく「RESTART POiNTER(再出発の指針)」なんだと思う。「この曲を歌うたびに今日のことを思い出す」と陸が言うのは、誇張でもなんでもないんだろうな。
まず今日から越えなくてはいけない
「どんな今日も変えられるさ」という出だしの歌詞が考えれば考えるほど重くて、今日はクリアしたから明日からまた、ということではないのだ。今日が既に変えなくてはならないものなのである。今日をようやっと乗り越えたら、明日も戦わなくてはならないのだろう。彼らの毎日は絶え間ない戦いの連続であり、それがグループの歴史になっていく。
それほど厳しい日々が続いていくとしても、「きみと笑い合えたなら」、「どんな今日も変えられるさ」と言う。「きみが笑ってくれるなら」ではなく「きみと笑い合えたなら」。この違いを思うとわたしは泣きそうになる。険しい道のりを確かに歩いていける、その理由が、ただ笑い合うことそれだけなのだと言う、あまりのささやかさに胸を打たれる。
「きみ」が、グループ内のメンバーを指すのか、ファンを指すのか、紡ちゃんを指すのか、それはわからない。全員のことを表しているような気もする。けれど、「きみ」への愛情深さと、自分は必ずきみに笑顔を向けてみせる、という自負すら漂っていて、なんて曲だろうと思う。「RESTART POiNTER」は、この、なんにも言えなくなるフレーズから始まるのだ。そして、そのフレーズをひとりで歌い上げる陸の、圧倒的な存在感。
指針と支柱
これほど明るいメロディなのに、こんなに胸を締め付けられるのは、彼らの進む道が困難で、きっと何度も何度も立ち止まるであろうことを、わたしたちが知っているからだ。そして、立ち尽くす彼らが怯まず、むしろ微笑んですらいるような気がするからだ。
「決めたなら貫け すべてを賭けるよ」とあるように、道のりが生易しくないことは彼らが一番わかっている。でも、曲の根底に流れる気高さのようなものを感じるたび、たとえ光が見えなくなっても、彼らはきっと大丈夫だと信じられる。
サビには「また新しい夢を見ようよ」という歌詞もある。また新しい夢を、ということは、古い夢は潰えてしまったのかもしれない。けれどまた、何度でも、もう一度。この眩しさはなんだろう。小さなことで躓いて悩んで苦しむ、彼らがひとりの人間なのだと知っているから、この放たれる輝きの強さにどうしようもなく惹かれる。これがアイドルなんだと思い知らされる。
ストーリー中のライブ演出は本当に凄かった。表情が見えないけれど、自信たっぷりなことが見てとれる陸の歌い出し。中段から陸を振り返る一織の、嬉しくてたまらないと言わんばかりの、幸せで得意げな表情。陸はあの一織の顔を見ただろうか。見ていたらいいな。一織は中段の真ん中にいるから、振り返った一織の顔は上段にいる陸にしか見えない。
パッと顔を上げた時の陸の満面の笑みは、何度見ても陸の凄さを感じる。どれだけ傷ついても変わっても、自分の中にある魂は曇らせない、これがアイドルグループのセンターかと実感させられる。折れないことが強さではないし、陸こそが支柱なんだと素直に思う。
それに、とにかくこのMVは卑怯だ。最初から最後まで放心ポイントしかない。
壮ちゃんの幸せそうな柔らかい微笑み、三月のアイドル感満載ウィンク*1、キリッとしたよそ行きナギの圧倒的美形スマイル、最後に画面の端にチラッと見える大和さんのいたずらっ子みたいな笑顔(最後に映るイケメンモードとのギャップがまた素晴らしい。心底楽しいんだとよくわかる)、完全アイドルモードの一織のキメ顔。壮ちゃんと笑い合う環は珍しいくらいにっこり笑っている。
2部の辛い展開を経てきたから、ハードモードな道のりはまだまだ続くから、7人が幸せそうに踊っている姿にたまらなくなる。この時がずっと続けばいいのに。辛い思いをしてきた分だけ、7人がとびきり幸せになれたらいいのに*2。
好きという感情で苦しめるということ
アイドルを応援するファンの視線は、暴力的な側面から逃れられない。応援はプレッシャーをかけることに直結するし、顔の見えない多数から向けられる愛は、優しさと凶暴さをどちらも孕んでいる。華やかなステージの裏側を覗き見たいという、ある種の「えげつなさ」をいつも同居させながら、アイドルとファンの関係性は深まっていく。秘められた物語を表舞台に引きずり出してしまえば、応援する力のガソリンになることに、そういうエンターテイメントを自分たちが選んでしまったことに、わたしたちは無自覚ではいられない。
アイドリッシュセブンの物語がすごいと思うのは、そういう、顔の見えないファンが持つ「好き」の暴力性をきちんと描いているところだ。あくまでフィクションなのだから、アイドルたち個々人の物語だけで十分ドラマチックに仕上がるのに、シナリオの都志見文太さんは絶対にそうしない。ライバルグループではなく、同じグループのメンバーにこそ抱く羨望や嫉妬を、懸命さが時に報われない現実を、守りたい相手を傷つける好意の純粋さを、繰り返し描き出してくる。
「アイドルを苦しめるのは、いつだって好きの感情なんだ」という印象深いセリフが出てくるけれど、これはモモが自虐的に言っているだけじゃなくて、物語全体を通して語られているテーマだ。
アイドルは過酷なプレッシャーを受け続けるほどに、輝きを増すものなのかもしれない。好きという感情が持つどろどろしたものをすべて飲み込んでなお強く輝ける、そういう人だけがアイドルであれるのかもしれない。だからこそファンは、目をそらさせないでほしいと思うし、最後の時まで見届けたいと願うのかもしれない。それは随分勝手な願いだけれど、その膨大で勝手な愛を受け止められる者こそがアイドルなのだとしたら、アイドルというのは、なんて孤独な仕事なんだろう。
「RESTART POiNTER」のMVを見た時、アイドリッシュセブンがこの7人でよかったし、アイドリッシュセブンを応援できて幸せだと思った。その幸福感のぶんだけ、彼らが笑えたらいいのになと思う。
それにしても「Re:vale」のグループ名がどこで爆弾になるのか怖い。「vale」はラテン語で「さようなら」という意味だけど、「Re:」と付いているのが「さよならへの返事」という意味なのだとしたら、誰が誰に別れを告げるのか、誰がそれに応えるのか。もう想像しただけで胃が痛い。逢坂印の胃薬発売を願ってやみません。