立ち往生

基本的にネタバレに配慮していないのでご注意ください。

映画刀剣乱舞に見る、人間という生き物への愛しさについて

「映画刀剣乱舞」、4回見ても新鮮に感動しているので、感想を書いておきます。まだ見ていない方はこんなクソ長い記事読んでないで今すぐ映画館に行ってください。いつもどおりネタバレしかしていませんし、この映画はネタバレを踏んでから見ると、ネタバレしてきた人をみじん切りにしたくなると思います。

 

 

 

「ただいま戻った」は、「ありがとう」と「さよなら」なんだなあ。

ここまで務め上げた審神者の最後の大仕事を、自分のせいで穏やかに終わらせてやれなくなるかもしれない。その後悔と懺悔を一人で抱えて、自分がなんとかしなければと気張る三日月が「行って参る」と口を引き締めた時、彼にはきっと戻ってくるつもりがなかった。「まるで今生の別れのようだな」と笑う三日月の顔はどう見ても泣いているようだった。

でももう一度戻ってくることができた。『今生の別れ』の直前に、背中を向けたまま、敵の刃を受けながらの「ただいま戻った」。その言葉に審神者からの「おかえり」はない。優しく微笑むだけ。伝えきれない感謝と愛情、そして伝えられない「さよなら」がこんなに籠もった帰還の挨拶があるだろうか。

人間である審神者にずっと寄り添って過ごしてきた三日月は、彼が少しずつ老いていく姿をどんな気持ちで見つめていたんだろう。いずれ必ず別れが来る。刀剣は人がいなければ生み出されないものなのに、人と一緒に生きていくことはできない。一日一日、必ず来る別れに思いを馳せ続ける。そんな日々を想像すると、周囲の怒りも淡々と受け流していた三日月が、審神者の聖域に土足で入り込んだ大太刀に対して怒りを顕にするのも納得がいく。主の晩節、審神者として生きた男の最後の務めを汚すものを決して許さないのは、三日月が常に、彼との別れを心に秘めていた証拠なんじゃないかと思う。

 

でも円環から抜け出すことはできないわけで

三日月が本丸に戻らぬ覚悟さえ決めている、という事実に気づいていた審神者が、山姥切たちをもう一度安土城に戻して、「成すべきことはまだある」と言う。そして新しい審神者が来て、三日月は「守りたいものがまた増えた」と言う。これって本当に、本当に残酷ですよね…。

幼い審神者は成長し、再び三日月たちは彼女と同じ時を重ねていくわけだけど、またいずれ必ず別れがやってくる。審神者は人間なので、神様と同じ時間は生きられないのです。守りたいものはどんどん増えるけど、それはいずれ失われることがわかっているものばかりなのだ。けれどそのすべてを受け入れて戦っていくしかない。同じ時代に何度も何度も出陣し、同じように歴史を繰り返していかねばならない。こんな酷な仕打ちがありましょうか。

不動役の椎名さんが、シナリオブック内のインタビューで「映画の不動は極になる前、レベル50か60くらい」と仰っていた。確かに映画の不動は、舞台版みたいに、蘭丸に会えて無邪気に喜んだりしないし、蘭丸や信長を助けようとはしない。背を向けて「ごめん」とだけ言う(ここの、激情を必死に堪える不動と、全部わかっていて不動を目で止める三日月の芝居が何度見ても素晴らしすぎて震える)。本丸に戻っても、あからさまな虚勢だとバレてはいるけど、元気そうに振る舞うこともできる。

不動はこれからも何度も、元の持ち主が謀反の刃に倒れるさまを、自分を振るって最後まで戦った姿を、ずっと目の当たりにしつづけなければならないんだなと思うと、あまりの過酷さに泣いてしまう。今、こうして刀剣男士として生きる今なら、あるいは守れるかもしれないのに。でもレベル50か60くらいの不動はそうはしない。薬研が、今の自分は主の刀なのだと腑に落ちたように、不動もまた、どこかで折り合いをつけている。

ちなみにその後の「お菓子食べ過ぎでは?ティータイム」で、まんばの「不動も成長したということだ」みたいなセリフが、不動の本能寺出陣がどうも初めてではないのではないかという気にさせる…いや、わかんないですけど……酷だ…甘酒くらい許してやりたい…。毎度わざとらしくも茶化してフォローする日本号 is 男前

 

とにかく時間遡行軍がカッコよかった

時間遡行軍カッコいい~~~~ヒュ~~~!!! 最高!! あの人外感最高!!! 闇からシルエットだけボワッと出てくるの最高にカッコいいですね。脇差と短刀がいないのがもったいなく感じるくらい時間遡行軍だった。安土城でちゃんと銃兵を装備してるところもポイント高かったです。

割と時間遡行軍については感動ポイントが多くて、刀と着物持って跪くとかできるんだ(知能あるんだ…?)とか、信長の手紙を持って伝令に走った太刀を、別の太刀がちょっと避けて通してあげてたのとかジワジワ好きです。仲間意識あるのかなあ。あ、邪魔だねごめん気をつけて行ってこいよな(今生の別れ)みたいな…。

あとやっぱり大太刀が喋った時めちゃくちゃびっくりしました。喋れるんだ大太刀。大太刀がブンッて一閃したのも、ウワーゲームだ!!! と感激しました。ちなみにあのシーン、一番最初に薬研が斬りかかろうとするのも「機動速い順」って感じで良かったですね。

大太刀も「成すべきことを成す」という言い方をしていたの、絶対にわざとですよね。クリックしつづけて早4年、時間遡行軍は元刀剣男士なのでは、という匂いがプンプンしていますが、この台詞を聞くと、やっぱりそうなんだなと思ってしまう。審神者の元にいる刀剣男士たちが歴史を守ろうとするのと同じように、彼らにとっては「歴史を変える」ことが使命。そして刀剣男士にとっても、歴史改変に対する欲求は常に心のどこかにある。

かくも生きるということはままならず、人の身を得てしまったがゆえに刀剣男士はこうした葛藤を抱えていかざるをえないわけですが、そういう人間の、一面では決してはかれない業のようなものが、安土城の焼け跡で刀身を拾い上げた秀吉の表情に詰まっているように思う。自分が裏切り自分が殺した相手。かつては心から慕った相手。底知れぬ野心と欲と共にある、深い情と愛のようなものを感じる、とても好きなシーンです。

 

長谷部はどうかそのままでいてくれ

「悪いほうは」と口をつぐんだ日本号に「何だ」と問いかける長谷部の、台詞のまっすぐさ凄くないです? 三日月が意図を話してくれないことに憤ってはいるけど、「三日月が主を裏切ろうとしているのでは」なんて多分微塵も思い至ってないですよね。「三日月ごとか?」と揶揄されて「いざとなれば」という台詞の、絶対実感伴ってないよね?と言わんばかりの軽さ。長谷部って純粋なんだなあ、とわたしは映画を見ながら胸が詰まる気がした。

秀吉に撃たれた時も、秀吉が最初から自分たちを謀っていたことよりも、信長を裏切ることのほうを責めていて、即座に状況を理解した日本号に引っ張られるみたいに逃げているし、悪意に対して免疫がないというか、どうかそのままでいてほしいと願ってしまう。納得できないと感じたら、三日月相手にだって一歩も引かず食ってかかり、うわさ話を本人に聞かれたら間髪を入れずに謝り、すべてを知った後三日月を助けに来た時は、最初は三日月を見ているのに、相手がこちらを向くと視線を逸らす。そのある種の無垢さ、気まずさを隠さない素直さは、たぶん三日月にとって、そして他の誰かにとってとんでもない救いになっているような気がする(あと幼い審神者と遊ぶとき、きっちり両足を閉じているの、あまりにも長谷部)。

 

無銘だけど無名じゃなかった

無銘、びっくりしましたね。いや、びっくりして椅子から落ちかけるシーンはいくつもあったんですが、無銘が一瞬自分を取り戻しかけた時、大太刀が何度も「無銘、無銘」と呼びかけるところ、にくいなあと思いました。

銘や号、大雑把にくくれば「人から呼ばれる」名があるから刀はその刀であるわけで、名無しの刀は存在を証明するのが難しい。刀剣男士として存在してはならない、と言い聞かせるように繰り返し「無銘」と呼ぶ大太刀の不気味さと、「三日月宗近」と優しく呼びかける審神者の対比。

そして、その無銘が実は、銘をほとんど打たなかったことで知られる郷義弘の短刀であった、というきれいな種明かしがあまりにもスカンとハマっていて、「え~、あ~、きいてないよ……」ってなった。こんなの聞いてなかった。人に名を呼ばれ、人に受け継がれるから刀は名刀となるんだなあ。こういうところにも、人の人生が紡いでいく歴史というものへの眼差しの優しさを感じて、わたしはただただ「こばやし…やすこ…すご……」と震えるしかない。なんなんだ。凄すぎる。なんにも聞いてない。聞いてない!!!

 

役者さんの演技が本当にすごかったですね

安土城で信長公と三日月が対峙するシーン、圧巻というほかなかったんですが、信長公が「この男は名刀と同じ名前などではなく、名刀そのものであり、自分を死なせるためにここに連れてきたのだ」と気づいた瞬間に説明セリフが付けられていなかったことに、わたしは本当に感動しました。

セリフなんて要らないですよね、このシーン。山本耕史さんの目を見れば、信長公がすべてを悟ったこと、困惑と葛藤、なお足掻こうとする意図をバシバシ感じる。演出もちゃんとそうなっている。製作者が見る側をちゃんと信頼してくださっている、こうやって正しさと誤りを一面だけでぶった切らないシナリオで、こんなにも委ねてもらえることは本当に幸せなことですね。

それにしてもクランクインがこの安土城でのシーンだっていうのが未だに信じられない。三日月と、この見る方の背中がゾワッとするぐらいの目線でのやりとりをした後に、「水をもう一杯所望じゃ」とか言ってたってこと? 安土城で薬研に呼びかけながら切腹した後に、本能寺での切腹シーンを撮影したってことですよね?? 役者さんって凄すぎる…。泥臭さと野心と狂気と人間味が全部同居した、八嶋さんの秀吉もとてもとてもよかったです。

 

その他(もう文章にすることを放棄)

・偵察値が下から何番目かってくらい低い日本号を偵察に行かせてて笑ったけど、ちゃんと索敵成功してたから有能だなと思った

・最初の戦闘でまんばがマント翻して機動速い感じの超カッコいい戦い方をしていたり、貴重なベスト姿を披露したり、靴を脱いでくれたりしているのに、一緒にスクリーンに映ってくる薬研の脚が凄すぎて脳内キャパがもう無理

・ばみが美少女を極めていて川になりたかった

・というか川のシーンは美少女とカッコいい人と美形の美脚しか映ってないけど、あまりにも眩しいし画面は明るいし、自分の意識が白んで遠のきかけているのかと最初は本当に心配した

・三日月がドリンクを飲んで全回復したのがゲームっぽくて非常によかったし、あれが変若水じゃなくてよかった。赤かったからドキッとしちゃったよ

・わたしはステで鯰尾を見た時から、いつか鯰尾と骨喰に並んでほしいと常々心から思っていたので、まさか最後にそれが叶うとは全然ちっとも思っていなくてひっくり返った

・最後に流れる主題歌タイトルが「UNBROKEN」って………ハァ……(あまりの粋さに語彙をなくすさま)。壊されないのは歴史であり、人の生き様であり死に様であり、刀であることの誇りであり。死ぬな、生きろ、と呼びかけられるよりも、生きて死ねと言われることがこれほど胸に迫るなんて知らなかったです。歌詞を読むだけで泣けてしまうぐらいカッコいいので、映画終わって5秒で曲を買ったよね

 

 

いやあ、本当に、自分の好きなコンテンツがこんなに素敵な、何度見ても新鮮に驚いて楽しめて、ほろっとさせられる実写映画を作っていただけるのは、幸せなことだなと感じます。スタッフのみなさまありがとうございました。

なお明日は応援上映だそうですが、審神者たるもの法螺貝くらいは吹けるようにしておくべきなのかなと知見を得たので、とりあえず肺活量を鍛えることにします。

togetter.com

自分の刀が出陣する時に法螺貝くらいは吹きたいよね

 

なお、小林靖子さまの脚本がまるごと読めてしまい、かつキャストの台本書き込みやスタッフ・キャストインタビューまでついてくる公式シナリオブック、買いです。長時間持って読み込んでも安心安全なプラカバーつきだから、わたしのように手汗がひどい人にもオススメだよ!

映画刀剣乱舞 公式シナリオブック

映画刀剣乱舞 公式シナリオブック