立ち往生

基本的にネタバレに配慮していないのでご注意ください。

Free!2期感想①~あの夏の数かぎりなきそしてまたたつた一つの表情をせよ

過去から未来へと目を向けた「Free!」2期。凛の視野が広がるのと呼応するように、鮫柄の他のキャラも前に出てきた。「Eternal Summer」の副題がもうそれだけで切ない。

 

あの夏の数かぎりなきそしてまたたつた一つの表情をせよ(小野茂樹)

 

この短歌を何度も思い出した2期。誰より自分を持ち、フリーであったはずの遙がひとり立ち止まったまま、周りが少しずつ、だけど確実に変わっていく様子が細やかに描かれている、沁みる物語だった。

 


●僅かな変化が積み重なっていく


大人になっていく速度は人それぞれだ。

部長になったせいもあってか、2期の凛は1話から既に未来を見据えていて、1期の頃よりずっと視野も広い。「夢を叶えるために、競泳の世界に飛び込もうとしている」。そこに迷いはない。

怜が泳ぎの特訓をするのは、遙と真琴が卒業した後の水泳部のためだ。
渚も、親に退部を迫られることで「ただ楽しいから泳ぐ」ことから脱却し、やりたいことをやるためには他のものに折り合いをつけなければならない時もあること、厄介事から逃げずに言葉を尽くして相手に伝えることを学んでいく。

真琴も、早いうちから夏の終わりを予感している。遙はこの小さな町に収まる器ではなくて、もっとずっと遠くの世界にまで泳いでいける才能を持っていること。そして自分には遙ほどの才能も、卒業後も泳ぎ続けたいという情熱もないこと。今、誰より近くにいる遙と真琴を隔てるものは大きく、真琴が遙と一緒に泳げるのはこの夏が最後だということ。真琴は全部ちゃんと気づいていて、もちろん「遙がまだそれを理解していない」ことにも気づいている。

 


●真琴が遙に勝負を挑んだ理由


真琴がフリーに挑戦し、遙に「自分と本気で勝負をしてほしい」と頼むのは、遙との圧倒的な差を実感しないと、真琴も前に進めないからだ。凛が「お前ならスカウトの1つや2つ来るだろう」と言っていたように、真琴も全く才能がないわけじゃない。だから真琴も、油断すると「もしかしたら卒業しても、遙と一緒に泳げるんじゃないか」と勘違いしそうになる。立ち止まりそうになる。真琴だって、このままでいたいのだ。

でも、それじゃダメなのだ。遙がいるべき世界はもっともっと広く、ずっと遠く、真琴は行くことができない場所だ。居心地のいい巣から旅立つために、遙ときちんと決別するために、真琴は全力で勝負を挑む。

ここでたまらんなあと思うのは、真琴が立ち上がって歩き始めたことに、遙が気づいていないことだ。様子がいつもと違うことには気づきながらも、真琴が遙とは違う道を選び、青春時代に別れを告げる決意をしたことには気づいていない。そう遠くない未来に自分も決断しなければならないことだと、遙はまだ知らない。こんなに近くにいるのに。

フリーで真琴が遙に完敗した後のシーンに、この差がよく表れているなあと思う。
遙は「真琴が自分に勝ちたかった」のだと思っていて、だから負けた真琴は悔しくて泣いているのだと感じ、声をかけることを躊躇う(かつて凛が遙に負けた時みたいに)。けれど真琴は「遙に負けたかった」わけだから、晴れ晴れとした顔をして「やっぱり水の中じゃ最強だね、ハルちゃん」と、子どもの頃と同じように笑う。遙には、なぜ真琴が笑うのかがわからない。

真琴が顔を上げる直前に頬を流れたものが、涙なのか水滴なのか分からないけれど、私は一滴の涙であってほしいなと思う。顔を上げたら笑っていたから涙ではない、というのはちょっと夢がないというか、真琴はこのシーンで、子ども時代から続いたキラキラした時間と決別する覚悟を固めるのだから、その淋しさと悲しみと決意がこもった涙を一筋だけ流したのだと信じたい。

同じ一滴の涙でも、遙と真琴の受け取り方はあまりにも違う。理由はわからないながらも、何かが少しずつ変わっていくことを肌で感じ、遙は落ち着かない様子を見せるようになっていく。

 

 

ひつじ雲それぞれが照りと陰をもち西よりわれの胸に連なる(小野茂樹)

 

長くなっちゃったので続きは次回。