立ち往生

基本的にネタバレに配慮していないのでご注意ください。

「RRR」を見たので忘れないうちに感想を羅列しておく

突然ですが「RRR」を見てきまして、自分の中で全く何の整理もできていないのだが、このぐちゃぐちゃな状態を記録に残しておかねばならぬと思ったのでそのままなぐり書きをしておきます。見に行ったきっかけは、私の好みを根源から知っている中高時代の親友が「お前はこれが絶対に好きだ」とおすすめしてきたからです。まあそうね、好きでした、はい。はい……。

以下ネタバレ放題で勝手にあれこれ言っているので、間違いも多々あるかとは思います。あくまで一オタクの主観による書き殴りということで。

 

rrr-movie.jp

 

前半~出会い

・インド総督嫁が「暖炉の上に飾っていい?」とか言い出したので、まじでマッリは剥製にされてしまうんだと思ったし、マッリ母は一撃で殺されてしまったと思った。マッリはペット扱いとはいえ生かされていてよかったし、マッリ母もご存命でよかった……(再会シーンを見ると特に障害も残っていない…みたい?)。

・押さえつける側の民族の一部を権利機構に取り込んで、相手の分断を図って支配形態を強めるのも、暴動の最前線に現地民を置いて体制側は全員後ろに引っ込んでるのも、まじ欧州植民地あるあるで初っ端からえぐみがすごい

「人間の数がド級に多い映像」というものの圧に殴られていて、これが映画冒頭なのマジなの? クライマックスじゃないの??

・見どころをスローモーションにしてくれるし、いいところで歌や踊りがカットインしてくれるし、なんか舞台を見てるみたい!! たのしい!!!

・ビームを匿ってる人たちってムスリムだよね?(女性が身に付けてるのヒジャブだよね?)ビームは潜伏先に潜むために自分もあの帽子を被ってムスリムのふりをしているってこと? ビームは像に手を合わせるシーンが何度か出てくるからムスリムじゃないよな? そしてムスリムと非ムスリムが一つの目的のためにこうして助け合っているというのは、冒頭ながらだいぶ胸が熱くなる場面

・出会ってしまった二人がラーマ兄貴の謎ジェスチャーで一瞬のうちに通じ合って笑った ジェスチャー全然わかんないから私はラーマ兄貴の弟にはなれない……。あんな使い方されたの初めてで、あの橋もびっくりしただろうな

・あとから考えると、あのインド国旗を交換する動作にも、独立への意志がラーマからビームに手渡されるっていう意味があったんだな~~~

・あれだけ危ない目に遭ってるのに、ちゃんとでかい魚を捕まえてくる少年、生きる力が強くてイイネ!

・仲良くなり方が急激でワラタ もう運命じゃん

 

ジェニーについて

・インド人もイギリス人も同じ人間であり、総督も総督嫁も死んだらインド人と同じ赤い血が流れる。そのことに気づいているのはジェニーだけなんだけど、それはジェニーがあまりに世間知らずだから、という描写が結構しっかり作られていたな~と思った。

総督邸の門扉が厳重な二重構造になっていることについて、無駄だよね~というようなジェニーの言葉があるけど、あの時のインド国内の情勢を考えると、イギリス側からすればどれだけ鉄壁の警備を敷いても足りないですよね。いつ襲われて殺されても不思議じゃないわけです。でも彼女はそれを理解していない。そして部屋に入ると温かい紅茶がテーブルにあり、友人が腹をすかせたら、すぐに食事の用意を申しつけることのできる使用人がいる(誰が紅茶を用意しているのか?とかいちいち考えないわけ)。無防備に一人で車で外出をすると、後から誰がどのように追いかけて来ないといけないか、パーティにインド人を呼ぶとどうなるか、彼女は想像すらしていない。

あまりにも無知で子供っぽく、ここまで不用心なのは、彼女が生まれながらの貴族育ちで、人の悪意に触れたことがなく、だからこそ子供のような眼で物事の本質を見抜くことがあるのだ、というのがすごく納得できる描き方だった。ほとんど言葉でコミュニケートできてない相手をあれだけ思えるのは、理屈で判断を下していない証拠です。そして決して馬鹿なブルジョワ娘ではない、というのは、屋敷に乗り込んできたビームの姿を見て何かを察し、取り乱したり問い詰めたりしない、ビームの鞭打ちシーンで決して総督に許しを乞うたりしない、みたいな部分できちんと伝わってきます。牢の構造情報は、あの出来事の後に自分の意志で判断してビームに流したわけだしね。でもまあエンディング後に二人が上手くいくかといったら微妙だなとは思います…。山とタタラ場で分かれて暮らしたほうがよさそう。

 

かわいいビーム~ナートゥをご存知となる場面

・ビームのために釘撒いたりエセ通訳したりで一肌脱ぐラーマ兄貴かっこよすぎなのだが、彼があれほどきちんと英語を話せることがだいぶつらくはあった。目的のために必要とはいえ、どんな思いで身に付けたんだろう……母語では役人になれない国……。

・「マダムハ・ヤメテ・ジェニーヨ」←えっ……??? こ、このヒゲもじゃの男に、今、か、かわいい……と感じている…だと????

・マダムハヤメテジェニーヨ状態のビームを見つめるラーマ兄貴の瞳の優しさに俺は……ヴッ……!!(動悸)

・自分が持ってる上等なスーツをビームに貸してやる兄貴尊い 上官に忌避されるだけで評価されてはいないものの、スーツをいくつか誂えるくらいは稼げていてよかった

・話題のナートゥがこんな場面で出てくるとは思わなかった。どうして自分はナートゥをご存知でない人生をこれまで送ってきたのか。私はナートゥを踊れない自分を恥じた。

・このナートゥが、白人だらけの白人のための賞として有名なオスカーで歌曲賞を受賞したのアツいね~~~。受賞した時にタイムラインがお祭り騒ぎだった理由がわかりました

・音楽とダンスで相手に挑むのバリかっこよい。あとから同じ思いをしみじみ噛みしめるのですが、これだけ全編暴れ放題拳上等なシーン満載の中で「暴力でない形の武器」を明瞭に描いているのは、監督の強固な意志を感じる。

・パーティで有色人種であることをバカにされた時、黒人の人も俯くとか、ラーマに対する黒人ドラマーの目の動き等々、明瞭に表現されているの良かったですね。彼らも自分の意志でここに来たはずはなく、ではなぜここにいるのか? 白人達は一体何をやっていたのか? というのを何の説明もなしに理解させてくれる描写。

・ラーマ兄貴の、わざと転ぶ直前のウィンク1億点

・ジェニーが自分でもまだ気づいていないビームへの思いに、いち早く気づくのがラーマっていうのがあの、その、アワワ

・おんぶされてるビーム SO CUTE

 

わんぱく動物大集合

・ラーマからあんな拷問されたら、私なら秒で全部吐くので、ラッチュはドジだけど志はビームと同じ、誇り高き森の男なんだな……。

・総督邸突入シーンで、ワイルドアニマル大集合をさせたビームも、イギリス兵と同じように虎たちと戦っていて「野生動物を意のままに動かすことは人間にはできない」ことを明確に描写していてよかった。虎や鹿たちは、ビームと同じく地上に生きる生き物のひとつとして独立した存在であり、ビームに付き従っているわけではないんだよね。彼らはあくまで「兄弟」であるだけなので。

・総督邸に乗り込むラーマ、燃える馬車で乗り込むのまさに「軍神」の描写ですね……あれっ、インド神話ラーマーヤナ」ってラーマ神が戦う話とかじゃなかったっけ? ラーマってラーマーヤナのラーマってこと……!? 

・身分をビームに明かしてから一度もビームの目を見ないラーマ兄貴の眉間から鼻筋から顎先にかけての線が美しすぎる

 

INTERRRVAL

・「INTERRRVAL」←ワラタ

 

後半~総督妻

・総督妻の残忍な様子は、かなりヴィクトリア女王(イギリスの植民地としてのインド帝国成立時の女王)の暗喩が含まれているのでは?と思いながら見ていた。だって総督不在の際に軍部の会議みたいなのに総督代理っぽく出席して、ラーマがビームを追うきっかけを作り出すシーン、なんかこう「総督の威光を笠に着て暴虐三昧」とは別のニュアンスを感じるんですよね。総督妻の立場にそんな権限ないし、この時代イギリスだって、貴族階級の女性は綺麗に着飾っていることだけを求められる場合がほとんどだったはず。

鞭打ちシーンの「本当に残忍なことを思いつく」「私は血しぶきが見たい」みたいなセリフからしても、彼女はインドから見たイギリス、インド国民から見たイギリス女王を体現したキャラクターなのかな~と感じました。だから強固な壁で守られた要塞の中で倒れるのは総督だけではダメだったし、彼女が倒れたことで総督の口から「なぜだ」が出たのかも。

 

ラーマの過去~鞭打ち

・ラーマ兄貴の過去、予想の5億倍重かった……ラーマ父は、息子の両手を血に染めることになると理解しつつ、戦いの火を息子に引き継いで散って行ったんだな……。そして父の背中を外さずに撃ち、戦いの火蓋を落としたラーマは、時を経て親友の背を撃つような真似をしてしまう。でも父を撃った過去は変わらなくても、親友との未来は変えられるのです。今までの血の滲むような努力の結果をなげうってでもビームを助けたラーマの行動には、父に恥じることは決してしないと腹をくくった誇り高さを感じるし、彼は助けるに値する男だと感じたから、あの一緒に軍に潜入していたおじさん(名前がわからん)も、迷いつつも必死にビームを助けようとしたんだな~。

イギリス人の銃弾は、ラーマ父やラーマの心を折ることはできなかったけれど、ビームの歌がラーマの気持ちを動かし、群衆の心を揺さぶるんだ。

・鞭打ちをちゃんと正視しようとするジェニーは、頭の足りない世間知らずお嬢ではない、というのがここでもちゃんと描かれていますね。ビームを家に招いていたことで、総督からバリ怒られたりしたんだろうか?

・鎖を引っ張ってビームを跪かせることで刑を終わりにしようとする兄貴……こんな美しい一粒の涙がこの世に存在するのか……うおお…(もらい泣きしかけるが、この場面で泣いていいのはラーマ兄貴だけだと思い必死に涙をこらえる私)

・血が見たい、と言った白人女王の言葉通りに流れたビームの血が民衆の足元に届き、彼らの意識が繋がり、ビームの怒りが民衆の怒りを呼び起こす……白人達の振る舞いがインド人達の愛国心を揺さぶり、やがて独立運動へ……。

 

ラーマの決意~シータとビームの出会い

・総督がラーマと握手した時違和感を抱いたのはなんでだろう、手の温度? ラーマが興奮して体温が高かったとか?(すぐに手を拭くのかなと思ったら拭かなかったですね)木に仕掛けられた罠に気づくのも早くて、この人クズだけど愚鈍ではないんだよな~と歯噛みしました。しかしこの立場の人が部下に優しくて務まるはずもなく、令和の今ですら有色人種を同じ人間だとも思わない行動を平気で取る人もいたりしますから、別に彼が群を抜いて冷血というわけでもないんだろうなと想像しつつ見ていました。

・シータの腹を殴った奴の似顔絵を今すぐ書いて探し出すべき

・シータが咄嗟に「天然痘」というワードを使って、武力なしに兵士を追い払ったのも、暴力以外の武器なんですよね。シータには腕力はないけど知恵がある。インド独立のために、インド人達はもちろん武器を持って戦ったけど、それだけでない様々な武器が他にもあり、そのすべてを総動員して未来にようやく独立を勝ち得るのだ、と監督から何度も伝えられている気がする

・シータの胸元からペンダントが滑り落ちた時、みんなビームとおんなじ表情しましたよね??

・ラーマ王子、シータ姫とか言ってるから、やっぱラーマは「ラーマーヤナ」から来てる名前だね? シータもラーマーヤナに出てくる? 読んだことがないからわかりません! インド映画を見るにはインド神話の知識が必要!!

 

大脱出

・ビームがジェニーと近づくために彼の手足になってあげたラーマと、ラーマが足を傷めた時に彼の手足になるビーム……ってコト!?

・ラストバトルの歌詞に「ビームは強靭な男」みたいな歌詞(うろ覚え)が出てきた気がするんだけど本当にまじですごい強靭で笑った 強靭 of 強靭

・ビームはあくまで森の男、羊飼いであり、大地で獣と共に生きる「人間」であるのだなあと思った。炎の軍馬が引く軍神の馬車に乗り、神の矢を番えるラーマとは対照的ですね。

・創作ならではの爽快な勧善懲悪と、現実の歴史を重ね合わせると、うっすら悲しみの残るラストバトルでもあった。神の力を得てこれほど無双できたなら、と天を仰いだ人たちが数え切れないほどいて、実際インドが独立を果たすまでに途方もない犠牲があり、イギリスの残した災禍がまだ解決できる緒もない、ということを作り手も観客もみんなわかっていて、だからこそこうした映画が作られるんだろうと思った。創作には創作にしかできないことがあるし、それが歴史を動かすことだってあるのかもしれない。

 

ラストシーン

・最後にビームが「読み書きを教えてほしい」というシーン、本当に、なんというか叡智を感じる。インド人が今これだけ国力を蓄え、国際社会での発言力を高めている事実を思うと、腕力に頼らない「知恵」という武器が持つ威力の大きさに感じ入ってしまう。

2022年にイギリスで誕生した42歳の若き首相は、イギリスという国が始まって以来のインド系移民の子孫です。まるで創作みたいだけど現実だ。知識をつけ歩みを止めず、戦い続けた歴史の中に今があり、今この時は更に未来の歴史に繋がっている。彼らの強さとしたたかさ、たくましさに、胸をつかれる思いのするラストシーンでした。

・EDに突然謎のおじさんが出てきて動揺した(あれは監督だと教えてもらった)。

・この映画5分に1回ぐらいクライマックスが来るけど、ラストバトルあたりからは毎秒クライマックスだったので、正直に言うと目が乾いたし肩が凝った……すごい映画だった…。

 

面白かったです!! 勢いで何もかもをなぎ倒していくパワフルな映画だったので、何も知らなくても堪能できたけど、もっとインドの歴史や風俗に関する知識があれば更に楽しめただろうな~という気がした。タブレットやテレビ画面で見るとだいぶインパクトが減りそうなので、都合がつくなら劇場のスクリーンで殴られた方がいいと思う。勢いと情熱だけじゃないメッセージ性と繊細さがとても魅力的な作品でした。

そして私はインド映画の舞台演劇っぽさがかなり好きだということがわかりました。ラーマーヤナ読んでみようかな。