立ち往生

基本的にネタバレに配慮していないのでご注意ください。

三国恋戦記感想(孟徳)

●孟徳
恋戦記の年上組やばいよね、ほんと。ダメ男すぎて惚れる。(笑)

孟徳さんは、一体いつから花ちゃんのことを好きになっていたのかなあ、と考える。

子玉さんの命を助けるために、誰が見ても天秤が吊り合っていないことがわかる取引で、あっさりと本を手放す花ちゃん。軍師という身分にあまりにも吊り合わない佇まいは、興味を惹かれるには十分だっただろうとは思う。

玄徳と剣を交える孟徳の後ろに守られ、妾としてお披露目され、孟徳軍の軍師として仕官することで、もう孟徳の所以外には(たとえ孟徳軍内であったとしても)行き場がなくなってしまった花ちゃん。このお披露目の時、花ちゃんがかえって辛い思いをすることも全部わかっててやってるよねー。周囲からの扱いに耐えられるかどうか、冷徹に観察してるとこあるよねー。このへんの、丞相としての顔がちらつくあたりすごく好きです。ただの気まぐれじゃない。全部計算。

しかし、退路が断たれていくのに、花ちゃんは「落ちている」感じがしない。どこにも行けなくなっているはずなのに「目を離すとどこかに行ってしまいそうな」花ちゃん。好きだと伝えるほどに、言葉は花ちゃんの心にまで届かない。本を焼かれてすら、自分のものになろうとしない姿に、孟徳は焦る。火事が、自分が花ちゃんを敵の前で見せびらかすようなマネをわざとしたせいだとも分かっていて、後ろめたさも大いにある。このあたりの、孟徳に余裕が段々なくなっていく感じが上手いなあ、すごいなあ。

信頼しないくせに信頼してほしいというのは勝手だ。だけど恋するって勝手なことだ。自分を愛してそばにいてほしいのに、飛び立っていこうとする自由さを好むみたいに。彼は全然ヤンデレじゃないよね。自分がいかに身勝手なことを願っているか、孟徳はよくよくわかっている。

城の中ですら寝首をかこうとする部下に囲まれ、信頼できる者がいない孟徳の孤独を癒す花ちゃんをそばにおいておきたい。けれど常識に縛られず、ひとつところに留まらない人であるからこそ孟徳は彼女を愛したわけで、そんな彼にとって「部屋に行きたい」と花ちゃんに嘘をつかれた時の思いはどんなものだったろう。自分に向けられる愛の言葉は、ずっと聞きたかったものなのに、それが嘘だと孟徳にはわかってしまう。花ちゃんは花ちゃんで、やっと自覚できた孟徳への想いを口にするのに、それを嘘にしなくてはいけない辛さ。このシーンは本当に凄まじい。シナリオもさることながら、森川さんの演技が素晴らしかった。何度やっても手に汗握る。

相手が嘘をついているのがわかる、って辛いだろうな。騙されたままでいたい時ってあるもんね。

孟徳はこのまま冷酷非道な丞相であって、自分が幸せに死ねるわけはないのだと心の奥底で自覚したまま生きてほしいな、という個人的な希望があります。そして花ちゃんも、他人の血にまみれた彼をそのまま抱きしめるような。そういう関係がこのふたりの理想です。