CLOCK ZERO~終焉の一秒~Extime・円ルート感想
円
島ディレクターおすすめの順番に沿うと、理一郎のあとは円らしい。ルートに入る前は、理一郎のあとにいきなり政府側に突っ込むのもどうなのかなーと思っていたけど、終わってみればすごくいい順番だった。
夜中にプレイしていたので、レインの唐突な声遊びに心臓が止まりかけた。「なんとか、なりますよ」とか言って舌なめずりするビショップなんかメじゃなくて、実はレインが誰より鬼畜だなんて、この時はまだ知らなかった。
とにかく最初から最後までキングのアレさがすごくて、プレイ時の走り書きがほぼ「こわい」だった。
キングにとってこの世は箱庭で、周囲は全員人形のようなもので、世界も周りも壊れようが壊れまいが心底どうでもいい立ち振舞いがゾクゾクするほど怖かった。これだけ徹頭徹尾自分のことしか考えてないくせに「自分を優先させるのも気が引ける」とか、へそが茶を沸かすどころの騒ぎじゃないし、言葉が1ミリも通じてる気がしない。ストラップを見とがめられて「円からもらったの?」って言われた時なんか、そのまま息が止まるかと思った。恐怖で。ホラーゲームかよ。
目覚めてすぐに愛の告白をしちゃうのも、そりゃそうだろうな、と思った。言えなかった後悔を抱えて10年生きちゃってるわけですからね。この生の希薄さ、立ち絵の目の恐ろしさは、病んでるという言葉ではとても表現できない。魔王になろうとしなくたって、既に立派な魔王ですから。安心してください。ここまでキングの話しかしてません。
まっすぐ進むことができず、盤面の半分しか動けない縛られた駒であるビショップですが、円は撫子に責められたかったんだなあと思った。
円のせいで撫子が事故にさえ遭わなければ、キングがキレることもなかったわけで、その理不尽さしかない状況でも気丈に振る舞う撫子に責められたかったし、きちんと泣かせてあげたかったんだなあ。ようやく泣けた撫子を円が抱きしめるシーンは、現実世界で、居場所を作るために気丈に振る舞う円の本音を撫子が引き出したのと対照的で、きれいなシーンだった。
一度は鳥籠の中に撫子を残して行った円が戻ってくるあたりは、「僕が守るって言ってるんです」というポロッと出た本音にハゲそうなくらいときめいたし、まるっとお見通しなド鬼畜レインがヤバかったし、世界を壊してまで手に入れたかった撫子をあっさり側近に奪われちゃうキングの心境を想像すると凍るしで、気持ちが忙しかった。どんな顔をしたらいいのかわからない。よく殺されなかったな、円。
このルートの何がいいって、帰るのか帰らないのか、撫子が自分の意志できちんと選ぶところだと思う。理一郎による撫子の気持ちガン無視具合が効果的に感動を高めてくれた。円も、帰ってほしくないと全身で表現するけれど、直接的なことは一言も言わない。また会える、とかそういう気休めを口にしないのもよかった。「二度と会いません」って断言してるもんね。
機械に撫子が入って蓋を閉める土壇場のシーンも良かった。離さなければいけないと分かっている手を、撫子からは離せないとわかっているから、円から離す。
そして「好きでしたよ」と告げるのが、円らしくて卑怯だなと思う。帰ると決めた撫子には「好きだ」とは言わないのだ。半分は蓋を閉める隙を作るためだと私は思う。帰るか帰らないかを選ばせたのが、円にとって精一杯のワガママで、撫子が帰ると決めたなら、もう何も言わないのだ。円のそういうところがとても卑怯で、とてもいじらしい。好きだ(唐突)。
目覚めた撫子が泣くところで私も一緒に泣いた。バックで流れる挿入歌の「この世界のどこでだって見守っててあげる 大丈夫 きっと大丈夫 ここから始めたらいい」が、壊れた世界の、あのもう二度と会えない円からのメッセージとしか思えなくて涙腺が崩壊した。
世界は壊れず撫子も死なず、円と一緒に大人になり、ふたりは同じ時間を刻んでゆけるのに、そこにあの円はいない。この幸せは「あの」円のおかげなのに、撫子はそのことを忘れてしまうのだ。10年後の円がきちんとワガママを言い、ふたりが幸せそうにしているぶんだけ、胸をつかまれるような切なさがあった。
「これで終わり!?」の言葉が宙に消えた残留EDよりも、やっぱりきちんと現代に戻ってくるEDが好きだ。挿入歌の歌詞を読んでも、壊れた世界の記憶をなくしてしまう方が本流の終わり方なんだろうと感じる。
楽しい時間は終わるから輝くのだし、いつか必ず大人になってしまうから、子ども時代は得難いものなのだ。壊れた世界で感じた想いも交わした言葉も、いずれ失われることがわかるから切なく響く。
円と撫子の失われた思い出を、プレイヤーだけが覚えているから切ないように、私も誰かとの思い出を忘れて生きているのかなと思った。人は忘れることで生きていけるけれど、誰かを愛したことも覚えていられないのだとしたら、愛しいと感じた瞬間の持続しなさにどうしようもなくなる。「そしてまた、ここから」歩いていく、忘れて捨てて新しく得て、それが生きていくことなんだろうか。くそう。切ない。切なさエンドレス(歯ぎしり)。
撫子を現代に戻したあとの円は、ちゃんと即効でキングに殺されていてほしい。頼むよキングさん。そして顛末を知ったレインがさぞかし無邪気な微笑みを浮かべるんだろうなあと思うと、壊れた世界は永遠に不幸の螺旋にあればいいとすら感じる。なんだこの病み製造ゲーム。たまんねえ。